森谷先生はEMS研究の第一人者。40年以上にわたる研究で得た知見とともに、そもそもEMSとは?という基本的な原理から効果・効能まで、分かりやすく紹介します。
EMS(Electrical Muscle Stimulation=筋電気刺激)とはその名の通り、電気の刺激で筋肉の収縮を促すトレーニングメソッドです。通常は脳からの信号が脊髄の運動神経を通って、筋肉に伝わることで収縮が起こります。それに対してEMSは、脳の代わりに専用の装置を用いて皮膚の上から筋肉に直接電気を流すことで、筋トレと同等の効果を得られるようになっています。
前回お話した通り、重い負荷をかけないと「速筋」は鍛えられません。具体的には"自分が持ち上げられる限界の75%ぐらいの重さを10回上げるのを、続けて3セット"でしたね。ところがEMSの場合、身に着けるのは電気を流す装置だけ。重い負荷がなくても「速筋」が収縮するという、常識では考えられない現象が起きるんです。
何故こんなことになるのか? 皆さん"オームの法則"って、聞いたことありますね?これは簡単に言うと、電気を流す対象物が太いほど抵抗が少なく、電気が流れやすくなるという法則。太い電線と細い電線なら、太い方が流れやすい。筋肉も同じ理屈で「速筋」は「遅筋」よりも筋線維の神経が太い。つまり抵抗が少ない「速筋」に真っ先に電気が流れ、収縮が起きるんです。
筋トレというのは通常はサイズの小さな「遅筋」から収縮して、重い負荷がかかってはじめて「速筋」が動員される。"逆・サイズの原理"によってこの順番が逆転するEMSは、科学的にも理にかなったトレーニング方法というわけです。
「SIXPAD STATION」では、EMSに5つの動作を加えた「EMSハイブリッドモーション・プログラム」を行っています。EMSにゆっくりとした随意運動を組み合わせることで「速筋」と同時に「遅筋」も鍛えてしまうという、これまで不可能だった密度の濃いトレーニングを実現しました。
"わずか15分"という凝縮された時間の中で、効率良く全身の筋肉を鍛えられることが大きな特徴。トレーニングに時間を割けない多忙な方でも、無理なく続けられるでしょう。
「20Hz」とは"1秒間に20回=0.05秒に1回の割合で、筋肉に電気刺激を与える"ということ。筋肉は刺激を受けると収縮して張力を発揮し、次の刺激に備えて一旦態勢を整えて、再び収縮する。このサイクルを繰り返せる上限が0.05秒なんです。臨床試験でも、20Hzでは刺激を与えて1分後も筋肉の収縮が続いて張力が保たれました。しかし50Hzや80Hzでは、目に見えて張力が落ちていった。やみくもに周波数を上げて、筋肉をドツキ回せば良いというわけではないんです。『SIXPAD』は家事やテレビを見ながら気軽にできる、家庭用のEMS機器も発売しています。もちろん周波数はすべて「20Hz」です。
私がEMSの研究を始めたのは、アメリカでした。1980年代のはじめには、NASA(アメリカ航空宇宙局)で基礎研究に関わりました。無重力になると、1日に1%というスピードで筋力が衰えていきます。宇宙ステーションにたった2週間滞在するだけで、地上時に換算して約15年分もの筋肉が失われるわけです。だから地球に戻ってきた時は運動もままならず、糖尿病になるリスクも増大する。宇宙飛行士の生命と健康を守るためにも、EMSはなくてはならない存在です。
EMSの普及が期待されているのが、医療・福祉の現場。EMSは軽い負荷でトレーニングできるため、病気やケガで十分に身体が動かせない人々のリハビリに適しているんです。糖尿病の患者さんにご協力いただいた臨床試験では、筋力アップや体脂肪率の低下のほか、BDNF(脳由来神経栄養因子)の増加も認められました。健康状態はもちろん、認知機能の改善につながる可能性も見えてきたわけです。
私がEMSの研究をはじめて40年以上。近年はさまざまなエビデンスとともに、その効果が着々と証明されています。誰もが一生涯、健康的な暮らしを謳歌できるよう、EMSの役割はますます広がっていきます。