筋トレ前のウォームアップと、終了後のクールダウンに必ず行いたいストレッチ。それぞれのシーンに適した方法があり、使い分けることが効果をアップさせる秘訣です。
スポーツジムなどで、筋トレの前に10分も15分もかけて、入念にストレッチをしている人を見かけます。しかし良かれと思って行っているストレッチが、実は筋トレの効果を半減させている...ということもあるんです。
ストレッチには、大きく分けて2種類あります。
「動的ストレッチ」は腕や脚をリズミカルに、さまざまな方向に伸ばすストレッチ。ラジオ体操や、サッカーの練習前に行うブラジル体操が代表的な例です。"体操"と呼ばれている通り、見た目には"ストレッチ"というイメージから程遠いかもしれません。しかし関節の可動域を広げたり、筋肉を伸ばす効果があるので、まぎれもなくストレッチの一種。大きな動作をともなうため「ダイナミック・ストレッチ」とも呼ばれています。
筋トレ前のウォームアップには「動的ストレッチ」が適切。関節がスムーズに動くようになり、筋肉の温度と柔軟性が高まります。こうして身体を動きやすくしておけばケガの防止だけでなく、筋力のポテンシャルを最大限に引き出すこともできます。
体温や心拍数も上がるため「交感神経」の働きも活発に。「動的ストレッチ」は"さあ筋トレをやるぞ!"と、身体をONにするスイッチの役割も担っているわけです。
やるのは5分程度でOK。たった5分でも集中して行えば、十分なウォームアップになります。それよりも主目的である筋トレに、少しでも多くの時間を使いましょう。夏などの暑い時期は、ウォームアップしなくて良いという人もいますが、これはとんでもない誤解。確かに体温は上がっていますが、関節や筋肉はスムーズに動かせる状態になっていません。季節を問わず、筋トレ前には必ず「動的ストレッチ」を行ってください。
「静的ストレッチ」は、1方向に伸ばすストレッチ。開脚して胸を前に倒すなど、同じ姿勢をキープするため「スタティック・ストレッチ」とも呼ばれています。一般的に"ストレッチ"というと「静的ストレッチ」を思い浮かべる方も多いでしょう。
筋トレ後のクールダウンには「静的ストレッチ」が適切。筋トレによって筋線維は損傷し、周囲を覆っている筋膜は固まりやすくなっています。そこでゆっくりと筋肉を伸ばしながら血流を促し、隅々まで酸素を行き渡らせることで、損傷した筋肉の早期修復につなげるのです。前回お話しした「超回復」をスムーズに進めるためにも「静的ストレッチ」は入念に行うようにしてください。こちらは時間をかけてもOK、5分以上使っても構いません。
行うにあたっては、以下の点を守ってください。
ポイントは無理に伸ばそうとせず、リラックスした状態を保つこと。心地よさを感じながら行うことで「副交感神経」の働きを優位にし、筋トレで興奮状態になった身体を休息モードに持っていくわけです。
2つのストレッチを正しく使い分けることの大切さを、わかっていただけたでしょうか? 冒頭でお話しした勘違いというのは、筋トレ前に「静的ストレッチ」を行うこと。"さあ、やるぞ!"という時に「副交感神経」を働かせてリラックスしていては、意味がありません。脳が瞬間的に筋肉を収縮させる指令を、出せなくなってしまいます。
トレーニング前の「静的ストレッチ」の弊害については、2000年頃のアメリカを最初に、いろいろな研究で明らかにされています。中には、最大30%も筋力が低下してしまったという結果もあります。
※【参考文献】「定年筋トレ」2018年、(株)ワニブックス
ただし、私が60歳から通い始めた空手道場では、稽古前に「静的ストレッチ」を行っています。蹴り技などに必要な可動域を広げるためですが、その後に必ず「動的ストレッチ」を行ってから稽古に入ります。いけないのは「静的ストレチ」だけでウォームアップが終わったかのような錯覚を抱いてしまうこと。ウォームアップは、あくまでも筋肉の温度を上昇させて筋収縮・弛緩速度を高めるために行うものです。
また最近は"180°開脚ができるようになる"といったタイトルの本を、よく目にします。確かに開脚ができれば筋肉の緊張がやわらぎ、リラクゼーションや血行促進になる。しかし、できるようになったからといって、それが100%健康や生活習慣病の予防に直結するとは限りません。"180°開脚"という言葉だけがシンボリックに取り上げられ、オールマイティのように勘違いされるのは良くない。
ストレッチひとつにしても、始める前に"何のためにやるのか?"という目的を明確にしておくことが大切です。