2020/1/28

【vol.8】糖質オフダイエットは、筋肉と身体を破滅させる

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"悪者"と思われがちな糖質は、実は大切なエネルギー。世の中に流布されている誤った情報に惑わされず、しっかり糖質を摂ることが筋肉を育て、健康的な暮らしを実現します。 

◆昭和初期の日本人は、おにぎりを16個も食べていた

炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質の3つは「三大栄養素」と呼ばれ、私たちの健康や生命の維持に大切なエネルギーです。厚生労働省は理想的な摂取バランスを、以下のように定めています。右側のカッコ内は、私が奨励する数値です。

  • 炭水化物(糖質):5065% (60%)
  • タンパク質:1320% (20%)
  • 脂質:2030% (20%)

※【参考文献】「日本人の食事摂取基準(2015年版)」

私の奨励値では、筋肉の成長に欠かせないタンパク質を多めに、脂質を少なめにしてあります。しかしいずれにせよ、もっとも比率が高いのが炭水化物(糖質)なことは変わりません。巷で流行っている糖質オフダイエットなど、もってのほかです。

このコラムの【vol.1】でもお話しした通り、筋肉という"臓器"にとって、糖質は必要不可欠なエネルギー。大切なポイントなので繰り返しますが、身体に取り入れられた糖質のなかの約70%が筋肉で、約20%が脳で消費されます。心身ともに健康な状態を保つには、糖質をちゃんと摂らなければダメなんです。

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」に、次のような一節があります。

"一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲ食ベ"。

"玄米四合"といえば茶碗大盛り8杯、おにぎり約16個分、約2000kcalにもなります。農学校の教員でもあった賢治が「雨ニモマケズ」を書いたのは、1931(昭和6)年。これは昭和初期の農村の、標準的な食事量だったのでしょう。しかし当時の農民の写真を見ると"細マッチョ"ばかり。肥満や糖尿病に悩まされていたという話は、聞いたことがありません。まだトラクターなどなかった時代、筋肉を使うハードな農作業にはこのぐらいの糖質が必要だったんです。

◆糖質オフダイエットは、かえって体脂肪率を上げる

糖尿病による食事制限など特別な理由がないかぎり、糖質オフダイエットは百害あって一利ナシ。具体的にどんな恐ろしいことになるのか、お話ししましょう。

まずダイエットによって糖質の供給が絶たれると、脳の働きが低下する。頭がボーッとして眠気に襲われて、注意力が散漫になっていく。脳を働かせる唯一のエネルギーが、糖質です。それがどうしても欲しい脳は、どうやって糖質を調達するか? 筋肉から奪うしかありません。

糖質は筋肉で「グリコーゲン」となって貯蔵されている。これは糖質が4倍の水分と結合したもの。脳はこの「グリコーゲン」を分解し、糖質を調達するのです。こうして糖質と結合していた水は身体の外に排出され、エネルギーを失った筋肉はやせ細ってしまいます。

体重55kgで、うち脂肪が15kg(体脂肪率27.8%)の人がいるとします。この人が糖質オフダイエットで5kgやせたとします。しかし減った体重の大部分は排出された水と、やせ細った筋肉によるもの。15kgの脂肪はまったく落ちていないため、体脂肪率は30%に上がってしまいました。いわゆる"隠れ肥満"です。

私が教えていた大学でも、女子学生の半数近くが隠れ肥満の傾向にありました。全体を見ると確かにスリムだが、身体に締まりがない。無理なダイエットで筋肉がやせ細って、体型を維持できなくなった結果です。水分が不足して、肌や髪もガサガサ。一時的にやせてもすぐにリバウンドして、元に戻ってしまうでしょう。

そもそも何のためにダイエットするのか? もう一度ご自身に問い直してください。答えは、健康的に生きるためでないでしょうか? ならば"糖質オフダイエット=筋肉の自殺行為"などという、バカげた選択肢はないはず。ダイエットは一に筋肉、二に筋肉、三にも筋肉! 宮沢賢治の世界の農民のように、筋肉をつけて糖質を消費できる身体をキープしておくことこそ、健康の秘訣なのです。

◆よく噛んで「満腹中枢」を刺激して食欲をコントロール

糖質の摂り方には、ちょっとしたコツがあります。まずは食べる順番。炭水化物から手を着けるようにします。森谷家の食卓では、最初にご飯が出てきます。ご飯の茶碗を左手に持っておかずを食べる。こうして先に糖質を摂ると血糖値が上がって、満腹感が高まります。腹八分目ぐらいで箸が止まって、食べ過ぎを防げるのです。

満腹感が高まるのは「満腹中枢」が刺激されるため。これは脳の視床下部にある、摂食行動を調整する中枢神経。食欲をコントロールする、司令塔のようなものです。「満腹中枢」を刺激するには、よく噛んで「交感神経」を活発に働かせること。スマホやテレビを観ながらの"ながら食い"では噛むことに集中できず、食べ過ぎを招くだけ。食事も筋トレと同様に、集中することが大切なんです。そうした方が美味しく味わいながら食べられるので、良いに決まっています。

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森谷敏夫京都大学名誉教授

森谷敏夫
京都大学名誉教授

1950年、兵庫県生まれ。国際電気生理運動学会、国際バイオメカニクス学会など、多数の学会で会長、理事、評議員を歴任。世界で初めて、筋力増大に対する神経的要因の貢献度を評価した。

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