筋肉を鍛えることは、健康の出発点。糖尿病やガンの予防に、さらには病気を発症しにくくする安定した精神づくりにも、筋トレが心強いパートナーとなってくれます。
"糖尿病は遺伝だから仕方ない"と、あきらめている人がいます。本当にそうでしょうか? 国内で糖尿病の患者さんは1000万人を超え、予備群も含めると約2000万人と言われています。人口の約6分の1にもなる、というわけです。
ところが1955(昭和30)年の患者数は、現在の40分の1以下。もし遺伝だとしたら、たかだか60年でこんなに急増した説明がつきません。また前回紹介した通り、昭和初期の農民はおにぎり16個分という、現代人よりはるかに多くの糖質を摂っていました。にもかかわらず、糖尿病が流行ったという話は聞いたことがありません。糖質の摂り過ぎに原因を求めるのも間違いです。
糖尿病の原因はズバリ、筋肉の衰え。これは大切なポイントなので何度でもお話ししますが、身体に取り入れられた糖質のなかの、約70%が筋肉で消費されます。そして私たちの筋肉は、トレーニングをしなければ1年に1%ずつ減少していきます。
1日の大半はデスクワークで座りっぱなし、1〜2階上がるにもエスカレーターが当たり前という現代人の環境は、筋肉にとっては最悪。こういうライフスタイルを続けるうちに筋肉は衰え、本来はエネルギーとして消費される糖質が余ってしまう。すると膵臓(すいぞう)はインスリンというホルモンを分泌して、血糖値を抑えようとする。しかし膵臓の働きにも限界が来て、インスリンが分泌できなくなる。その結果、糖尿病が起きるわけです。
だから膵臓に過度な負担をかけずに糖質を消費できるよう、筋肉を鍛えて維持しておくことこそが、糖尿病への予防策になるんです。
私は"絶対ガンにならない!"と、公言しています。それはガンの家系じゃないから、といった理由でなく、筋肉を鍛えてしっかり予防策を取っているから。ガンも糖尿病と同じく、遺伝はほとんど関係ありません。ガンになる原因の上位3つは、以下の通りです。
※【参考文献】「京大の筋肉」2015年 デジタルアーカイブズ
まず、肉ばかり食べて野菜をろくに摂らない食生活だと、大腸がんになりやすい。だから筋肉のことを考えてバランスの良い食事をしていれば、原因の1位は解決できます(【vol.7参照】)。筋トレに関心のある人は健康意識が高く、タバコを吸わないでしょう。だから2位も問題ナシです。
3位の感染症を防ぐには、免疫力を高めておくこと。筋トレのような少しキツめの運動をすると、NK細胞の働きが活発になります。NK(ナチュラル・キラー)細胞とは、血液中に存在するリンパ球の一種。実は私たちの身体では、知らないうちに1日5000個〜9000個ものガン細胞が生まれています。しかしNK細胞が片っ端から排除してくれるため、発症せずに済んでいるんです。
つまり筋トレは、ガンの上位3つの原因すべてに対して、理にかなった予防策となるわけです。また、ガン細胞は熱に弱く、37〜38℃ぐらいでほとんどが死滅する。だから筋トレをして、体温を上げておくことも有効です。
ちなみにガンが遺伝の病気と誤解されるのは、喫煙や食生活が育った家庭環境に影響されやすいため。ガンは生活習慣病であり、原因はあくまでも後天的なものです。生命保険会社のガン保険に入る前に、まずは筋肉を鍛えて健康な身体をキープしましょう。
筋トレは身体の病だけでなく、不安や鬱といった心の病の予防策にもなります。 私たちの精神状態は、脳が分泌するさまざまなホルモンがつかさどっています。たとえば"ハッピー・ホルモン"とも呼ばれるドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンの3つは、精神を安定させる働きがある。筋トレをすると脳に程よい刺激が伝わり、これらの分泌が活発になるんです。
ドーパミンが増えると、β--エンドルフィンも大量につくられる。これは鎮痛作用がモルヒネの6.5倍もあり"脳内麻薬"とも呼ばれています。運動をした後の爽快感は、β-エンドルフィンによるもの。"麻薬"というと怖いイメージがするかもしれませんが、心配ありません。人工的に合成された麻薬と違って、幻覚ではない本当の心地よさをもたらしてくれます。さらにβ-エンドルフィンは、ガン細胞を退治してくれるNK細胞の働きも活発にします。
よく"病は気から"と言われますが、精神が安定すれば病気のリスクは減らせるし、身体の状態が良くなれば精神の状態も良くなる。そのバランスを適切に保つためにも、筋トレを始めましょう。