69歳で体脂肪率1桁をキープしている森谷先生。たくましい二の腕や引き締まった腹、研究や講演に忙しく飛び回る活力はどうやってつくられるのか?
その秘訣をお話します。
◆60歳から始めた空手で筋肉を鍛え上げる
私は身長170.6cmで体重は67.5kg。
体脂肪率は9.8%で、30代からずっと10%未満をキープしています。
現在行っている主な運動が、空手。
60歳のときにテレビで魅了され、「千唐流(ちんとうりゅう)」という道場に入門しました。
突きや蹴りは素早い動きが中心なので「速筋」を使う。
組手では防具を着けて3分間、相手とガンガン打ち合う。
最初のうちは強烈な筋肉痛に襲われながらも入門から4年、64歳で黒帯を取得しました。
現在は3段を目指して週2〜3回の稽古を続けていますが、体力テストをパスしないと昇段審査を受けられません。
体力テストは腕立て伏せ、腹筋、スクワットをしながらの蹴りをそれぞれ50回以上。
否が応でも筋肉と心配機能が鍛えられます。
空手とは別に、インターバルトレーニングも行っています。
時速12kmで2分、8kmで2分...と速度を変えて走るのを30〜40分続けて、「速筋」の瞬発力と「遅筋」の持久力を一度に鍛えているわけです。
こまめに速度を変えることで交感神経の働きが活発になり、トレーニング効果を高めることができます.
(【vol.4】参照 )
そして筋肉にいい食事を心がけて糖質、タンパク質、野菜を十分に摂る。
遅い時間の夕食は避け、規則正しい生活をすることで夜はグッスリ、朝はスッキリ目覚めています。
◆"NEAT"と"METs"を意識して、日常生活を筋トレに
私は20代まで体操競技をやっていましたが、ケガで引退。
60歳で空手を始めるまで運動はしていませんでしたが、日常生活のなかで筋肉を鍛える工夫をしてきました。
皆さん、「NEAT(ニート)」って聴いたことありますか?
これは " Non Exercise Activity Thermogenesis"の略で、日本語にすると"非運動性熱生産"。
ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、要は日常の何気ない動作で消費されるエネルギーのこと。
ほんの一例ですが、以下のようなものがあります。
犬の散歩、子どもの世話、台所の手伝い:3METs
床の拭き掃除:3.3METs
軽い荷物運び、車の荷物の積み降ろし:3.5METs
ペットと遊ぶ:5METs
雪かき:6METs
【参考文献】「おさぼり筋トレ」2019年、毎日新聞出版
「METs(メッツ)」というのは、厚生労働省が定めた基準。
座って安静にしている状態が1METsで、その何倍の運動強度になるかを表しています。
たとえば犬の散歩(3METs)をすれば、安静時の3倍エネルギーを消費できるということです。
日常の何気ない動作は、あなどれません。
チリも積もれば山となり、1日に消費するエネルギーの約40%にもなる。
1日2000kcal消費する人なら、このうち800kcalをNEATで消費できるということです。
45分ウォーキングをしても、消費カロリーはたかだか100kcal程度。
普段からチョコマカ動き回るのが、いかに大切かおわかりいただけたと思います。
近所への買い物は自動車、掃除はロボット掃除機まかせ、料理は台所に立たずスーパーのできあいを買う...。
もしこんな生活をしていたら、今すぐ見直しましょう。
◆ビルや駅で長い階段を見つけたらラッキーと思う
NEATの中でも、おすすめが階段の上り下り(上りは8.8METs)。
上りでは自分の体重を持ち上げる負荷がかかり、下りでは下半身で体重を受け止めながらバランスを取る。
階段というのは、お金のかからないトレーニングジムのようなものです。
体重60kgの人が3階分(約10m)上る場合の運動量を計算してみましょう。
"運動量=体重×移動距離"です。
参考までに、3kgのダンベルを100回上げるのと比較してみます。
階段を10m上る場合:60kg×10m=600kg・m
3kgのダンベル100回上げる場合:3kg×0.5m(※)×100回=150kg・m
※移動距離を腕の可動範囲の0.5mとした。
どうですか?
階段を上る運動量は、ダンベル400回分に相当するわけです。
こんな素晴らしいチャンス、無駄にできません。
私は、長い階段に出会ったら"ええ階段やなあ"と喜ぶようにしています。
大学で教えていたとき、こんなことがありました。
手紙を出すために2階の研究室から階段を降りて、1階のポストに投函した。
部屋に戻ったら別の郵便物があったのを思い出して、その日は結局3回往復をすることに。
学生からは"前もって郵便物をまとめておけば1回で済んだのに"とあきれられましたが、私は笑ってスルー。
3回も運動できた喜びの方が大きかった。
私の例は極端かもしれませんが、要は気持ちの持ち方次第で、筋肉を鍛えるチャンスはいくらでもつくれるということです。